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最高裁判所第三小法廷 昭和56年(オ)782号 判決

上告人

崔善海

右訴訟代理人

成田哲雄

被上告人

江川二郎

右訴訟代理人

湯本岩夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人成田哲雄の上告理由について

原審の確定した事実関係によれば、(1) 本件土地の所有者であつた訴外江川弥右衛門は、昭和四二年一二月八日に訴外泉宗正との間で、本件土地につき、弥右衛門を売主とし泉を買主とする売買予約を締結し、同年一二月一一日受付をもつて所有権移転請求権仮登記を経由したところ、上告人は、同四七年九月一〇日に泉から右売買予約上の買主たる地位を譲り受け、同年九月一一日受付をもつて右仮登記につき移転の附記登記を経由した、(2) 他方、被上告人は、本件従前の土地、一時利用地及び本件土地を善意につき過失なく、所有の意思をもつて平穏かつ公然と占有を継続したことにより昭和四五年一一月一日に一〇年の取得時効判旨が完成した、というのである。右事実関係のもとにおいては、泉が有していた買主たる地位がそのまま上告人の地位となつたのであり、上告人のため仮登記により保全されていた右買主たる地位は被上告人につき取得時効が完成したことにより消滅したものと解すべきである。したがつて、買主である上告人は右時効の当事者であつて、民法一七七条にいわゆる第三者に該当するものではない、と解するのが相当であり、被上告人は、時効による所有権の取得を登記なくして上告人に対抗することができるものというべく、これと同旨の原審の判断は正当である。論旨は、独自の見解に基づいて原審の判断を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(寺田治郎 環昌一 横井大三 伊藤正己)

上告代理人成田哲雄の上告理由

原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

即ち、原判決は、民法第一七七条の第三者に上告人は該るにも拘らず、当事者と解したのは誤りである。

一、上告人は被上告人が時効取得を完成させた日、昭和四五年一一月一日以後の同四七年九月一〇日、泉から売買予約上の買主たる地位の譲渡を受け同年一二月一一日登記手続を経たのであるから、民法第一七七条に謂う登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該ると解すべきである。

二、原判決は時効完成前の泉の権利の譲渡を受けたのだから泉と同一の権利であつて、当事者の立場に立つというが、それは誤りである。原所有者から時効完成後所有権を取得し、その登記をした者も、原所有者と同一の権利の承継者であるから当事者の立場になつてしまうことになる。第三者の立場とするのが判例である。(昭和三六年七月二〇日最高裁第一小法廷、民集一五・七・一九〇三)。

原判決は時効完成後に権利を取得し、登記したことを看過しているものである。

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